名前(ネイム アイデンティティー)
自分が何をする者かもわからなくなって
自分の名前さえも思い出せなくなって
途方に暮れる毎日が続いておりました
たった一人島に暮らす者にとって
名前など必要もないのですが
たとえば
遠い国を旅する人々に
何処へ行くのかと尋ねても
名前を持たない人々には
特にこれといった目的などあるわけもなく
たとえば
イスタンブールの石段に腰かけて水タバコを吹かしていたり
キリマンジャロの山奥でエメマンの香を楽しんでいたり
そんな他愛ないことをしていると
名前なんか持たないで気楽に世界中を旅しているのが
人間らしい生き方ではないでしょうか
親がどんな夢を持って名付けてくれたものかはともかくとして
自分の名前など思い出せなくなった気軽さで
波の音や海風とともに身軽になったこの身体が
カモメになって飛んでゆくのです
世界中の街角で
あなたにめぐり会うために