ドラマティック・ポエム

あなたの心の片隅に置く一冊にならんことを祈って。

名前(ネイム アイデンティティー)

自分が何をする者かもわからなくなって

自分の名前さえも思い出せなくなって

途方に暮れる毎日が続いておりました

たった一人島に暮らす者にとって

名前など必要もないのですが


たとえば

遠い国を旅する人々に

何処へ行くのかと尋ねても

名前を持たない人々には

特にこれといった目的などあるわけもなく


たとえば

イスタンブールの石段に腰かけて水タバコを吹かしていたり

イスラムの片田舎でシシカバブをほおばっていたり

キリマンジャロの山奥でエメマンの香を楽しんでいたり

そんな他愛ないことをしていると

名前なんか持たないで気楽に世界中を旅しているのが

人間らしい生き方ではないでしょうか


親がどんな夢を持って名付けてくれたものかはともかくとして

自分の名前など思い出せなくなった気軽さで

波の音や海風とともに身軽になったこの身体が

カモメになって飛んでゆくのです

世界中の街角で

あなたにめぐり会うために