ドラマティック・ポエム

あなたの心の片隅に置く一冊にならんことを祈って。

帰って来た浦島

海ガメさんがやって来て

二階の竜宮に行きましょう

毎日歌って踊って遊びましょう

乙姫さんの豊な胸が忘れられないよー

看護師さーん  早くカメさんに乗せてくれー

太郎さんはホームの一室で

夕べも騒いでいました


二階の竜宮の周囲には

赤ちゃん達がいっぱい泳いでいて

うるさくて寝むれないよー

看護師さーん

警察に電話してくれよー  早くー


そんな夜が幾日も幾日も続きました

やがてホームの窓の外を

星がひとつ流れて消えました


デカショーおじさん Ⅱ

シベリア帰りのデカショー伯父さんは

ハルさんと一緒になってから

    少し落ち着いた

電気屋さんの商売も始めた

時々僕を映画館に連れて行くようにもなった

土曜の夜に三人で連れ立って

    東映の映画館に行った


だけどシベリア帰りのデカショー伯父さんは

    時々荒れる

晩酌でちょっと飲み過ぎると

    ハルさんキスしてくれよーって    駄々をこねた

うちの家族は皆困った


そんな暮らしがしばらく続いたが

デカショー伯父さんはハルさんを置いて

パーマネント屋のおねーちゃんの所へ

    行って了った

それがシベリア帰りの

    デカショー伯父さんだ


かーちゃんと酔っぱらい

いつものー天気なかーちゃんの目が泳いだ

その酔っぱらいの話に

一生懸命に相槌を打ちながら

かーちゃんは僕を取りもどす

チャンスをねらっていた


僕は道端で酔っぱらいのおじさんに捕まった

僕の腕をつかんで離さないおじさんは

訳の解らない事をわめき散らしている

めったに動揺しないかーちゃんが

この時ばかりはあせっていた


半時刻程くだをまいた酔っぱらいは

ようやっと僕を解放して去っていった

何処の誰だか知らないおじさんだった

かーちゃんも僕も冷や汗をかいた

夕方のことでした


月曜の朝

車のタイヤが相変わらず砂利を蹴って

地面と喧嘩しながら走り出す

月曜の朝


後の車がピッタリとくっついて走る

うざい奴

僕はおもむろにタバコをくわえ火をつける

お気に入りのカンコーヒーを片手に

わざとのんびり走る


とめどなくやって来る

一週間という新しい波の繰り返しが

永遠の入口に感じるように

月曜の朝は永遠の扉が開く時

その扉の開け閉めに時には疲れてしまう自分がいる


寝惚け眼を擦っていると

月曜日がいつの間にか

僕の車のバックシートに滑り込んでいた

奴はどっかり腰をおろして僕の背中を見ていた

仮釈中の気楽な一時みたいな日曜日が終わると

赤信号が青に変わる

僕はアクセルを思い切り踏み込む


惑星、パッカー車

町中にゴミがあふれている

パッカー車は毎日気が狂う程走りまわる

スピーカーでも自転車でも何でもかんでも

ガリガリ  ガリガリとかみくだいて

飲み込んでゆく

町にはあまりにもゴミが多過ぎて

パッカー車の胃袋にはブラックホール

ガン細胞のように増殖して

巨大になったパッカー車は

富士山やエベレストまで飲み込んで

やがて地球まで飲み込んでしまったパッカー車は

惑星パッカー車となって

太陽のまわりを回り始めた


地球の全部を飲みほしても

パッカー車の心は光のささないブラックホール

あの銀色に輝く天の川のほとりにたどり着くまで

その力強い走りを止めることはない


プール

プールに石を投げ込んで遊んでいた

今度はあの大っきな石を投げ込んでみたくなった

両手で胸に抱える程の大っきな石を

よいしょって投げ込んだ

その大っきな石は  ブクブク  ブクブクって

大きな泡を立てながら

ゆっくりと水中に沈んでいった


その石は何時までもブクブクともがいていた

アレッ‼︎

うす暗い水中でブクブクしているのは

どうやら自分のようだと気がついた

通りすがりのレインコートのおじさんが

釣り人が大きな魚を誇らしげにぶら下げるように

オレの首根っ子をぶら下げた後

プールサイドに転がして去っていった


オレはずぶ濡れの服から雫をたらして

大泣きしながら家に帰った

あのおじさんが通らんかったら

オレ溺れて死んでたなあ

母ちゃん    かあちゃーん


スナック

夕もやの流れる頃    17号線ぞいの寂れた路地を入ると  古びたネオンが灯るスナックがある    その店の扉を開くとカウンターの中では   ロングドレスの似合うクラブあがりのママがニンマリと笑う    実は彼女は僕の愛人なんです    もう一人の若いヘルプの秋ちゃんは僕のことを秘かに想ってくれています

カウンターの片すみに座って    そんなふうに空想しながらビールをチビチビやっていると    僕の幸福な時間が過ぎてゆきます


客同士が喧嘩する程美人の秋ちゃんは    店が暇な時    僕にご馳走すると言って    近所のスシ屋に無理やり引っぱって行きました    ウルフカットの似合う秋ちゃんは    僕の腕にブラさがるように歩きました(これは本当の話だよ    なんてネー)


ある日秋ちゃんの姿が見えなくなりました    ママの話では    秋ちゃんは僕にフラれたと言って九州に帰って了ったそうです    あーあ    バラの花の一輪でもあげておけばよかった


それにしても店の看板まで    まだ少し時間がある

ママ‼︎    ビールもう一本‼︎    なんてネー