帰って来た浦島
海ガメさんがやって来て
二階の竜宮に行きましょう
毎日歌って踊って遊びましょう
乙姫さんの豊な胸が忘れられないよー
看護師さーん 早くカメさんに乗せてくれー
太郎さんはホームの一室で
夕べも騒いでいました
二階の竜宮の周囲には
赤ちゃん達がいっぱい泳いでいて
うるさくて寝むれないよー
看護師さーん
警察に電話してくれよー 早くー
そんな夜が幾日も幾日も続きました
やがてホームの窓の外を
星がひとつ流れて消えました
かーちゃんと酔っぱらい
いつものー天気なかーちゃんの目が泳いだ
その酔っぱらいの話に
一生懸命に相槌を打ちながら
かーちゃんは僕を取りもどす
チャンスをねらっていた
僕は道端で酔っぱらいのおじさんに捕まった
僕の腕をつかんで離さないおじさんは
訳の解らない事をわめき散らしている
めったに動揺しないかーちゃんが
この時ばかりはあせっていた
半時刻程くだをまいた酔っぱらいは
ようやっと僕を解放して去っていった
何処の誰だか知らないおじさんだった
かーちゃんも僕も冷や汗をかいた
夕方のことでした
月曜の朝
車のタイヤが相変わらず砂利を蹴って
地面と喧嘩しながら走り出す
月曜の朝
後の車がピッタリとくっついて走る
うざい奴
僕はおもむろにタバコをくわえ火をつける
お気に入りのカンコーヒーを片手に
わざとのんびり走る
とめどなくやって来る
一週間という新しい波の繰り返しが
永遠の入口に感じるように
月曜の朝は永遠の扉が開く時
その扉の開け閉めに時には疲れてしまう自分がいる
寝惚け眼を擦っていると
月曜日がいつの間にか
僕の車のバックシートに滑り込んでいた
奴はどっかり腰をおろして僕の背中を見ていた
仮釈中の気楽な一時みたいな日曜日が終わると
赤信号が青に変わる
僕はアクセルを思い切り踏み込む
プール
プールに石を投げ込んで遊んでいた
今度はあの大っきな石を投げ込んでみたくなった
両手で胸に抱える程の大っきな石を
よいしょって投げ込んだ
その大っきな石は ブクブク ブクブクって
大きな泡を立てながら
ゆっくりと水中に沈んでいった
その石は何時までもブクブクともがいていた
アレッ‼︎
うす暗い水中でブクブクしているのは
どうやら自分のようだと気がついた
通りすがりのレインコートのおじさんが
釣り人が大きな魚を誇らしげにぶら下げるように
オレの首根っ子をぶら下げた後
プールサイドに転がして去っていった
オレはずぶ濡れの服から雫をたらして
大泣きしながら家に帰った
あのおじさんが通らんかったら
オレ溺れて死んでたなあ
母ちゃん かあちゃーん
スナック
夕もやの流れる頃 17号線ぞいの寂れた路地を入ると 古びたネオンが灯るスナックがある その店の扉を開くとカウンターの中では ロングドレスの似合うクラブあがりのママがニンマリと笑う 実は彼女は僕の愛人なんです もう一人の若いヘルプの秋ちゃんは僕のことを秘かに想ってくれています
カウンターの片すみに座って そんなふうに空想しながらビールをチビチビやっていると 僕の幸福な時間が過ぎてゆきます
客同士が喧嘩する程美人の秋ちゃんは 店が暇な時 僕にご馳走すると言って 近所のスシ屋に無理やり引っぱって行きました ウルフカットの似合う秋ちゃんは 僕の腕にブラさがるように歩きました(これは本当の話だよ なんてネー)
ある日秋ちゃんの姿が見えなくなりました ママの話では 秋ちゃんは僕にフラれたと言って九州に帰って了ったそうです あーあ バラの花の一輪でもあげておけばよかった
それにしても店の看板まで まだ少し時間がある
ママ‼︎ ビールもう一本‼︎ なんてネー